イスラエルへの出発

出発前日に、宿泊した安宿の部屋引き出しの中に、何故か、日本語版の大型聖書が入っていることに私は気がつきました。そして、その日の夜、私は、出エジプト記を一気に読んだのです。出エジプト記を出発前に読むことが出来た事は、私にとって、まるで天のプレゼントのように思えました。 
そして翌日の早朝、エジプトのカイロを出発しました。イストラバスというバスに乗って、シナイ半島を横断し、イスラエルへ行くのです。その時の私の心は、何かとても大切な人に、何十年ぶりに会いに行くような、そんな興奮状態でした。私は少し体調を崩していたのですが、エジプトでは病院に行きませんでした。なぜならば、イスラエルの病院の方が設備がいいと思っていたからです。

シナイ半島は、特に別段何もなく、ただの砂漠が続いているだけのように見えました。しかし、ある程度、バスがシナイ半島を走っている時、前方に何かの塊がありました。私は、それをよく見てみると、その塊は破壊された戦車だったのです。それは、イスラエルとエジプト間で行われた戦争の時の残骸でした。

そして、一本の川が見えてきました。それは、スエズ運河でした。
そこで、運河通行のチェックが行われました。
そのために乗客は全員、バスから降り、スエズ運河を眺めることができたのです。
スエズ運河は、想像したよりも川幅が狭く、私にはとても意外に思えました。

「この運河の利権を巡って、世界中が熾烈な戦いを行ったのか」

私は、そんなことを思いながら、スエズ運河を眺めていたのです。
運河の水は、そんなことに関係なく、青く美しく、ゆったりと流れていました。
やがて、チェックが終わり、とうとう、運河を越えました。
そして、バスは、再び、イスラエルに向かって走っていったのです。

イスラエル、イスラエル、イスラエル・・・
人類にとって、イスラエルとは、一体何なのだろうか。
人類にとって、イスラエルとは、どういう関係があるのだろうか。
何の為に、国を創ったのだろうか。
何の為に、戦争を続けているのだろうか。
宗教とは一体、何なのだろうか。
神とは、一体何なのだろうか。

そんなことを、私は考え続けていました。人類の創世紀から、この地域は私達に大きな影響を与えて来ました。そして、これからも私達に強く影響を与え続けていくでしょう。そんなことを、一人、あれこれ思案しながらバスに揺られていました。すると、周囲に少しずつ樹木が増えてきて、それまで灰色一色の世界だったのが、少しずつ、薄い青色のような雰囲気が周囲に漂い始めて来たのです。色々な事に思い耽っている内に、バスはエルサレムに到着してしまったのです。

初めて城壁を見た時に、私は、なぜか、その城壁が懐かしい感じがしました。

「とうとう、イスラエルにやってきたのか」
私にとって、それは長年の夢だったのです。

イスラエルに着くと、まず、旅行者のインフォメーション・センターへ行き、イスラエル全体の地図を受け取りました。そして、すぐにその日の宿を探し始めたのです。
最初の夜は、オールド・シティといわれる旧市街の中で、ジャファ・ゲイトを入ったすぐ裏にある宿でした。私は、体調が良くなかったので、その日は、休むことにしたのです。夜になると、だんだん熱が出始め、少し、うなされるような感じになってしまいました。私は、日本人はてっきり私だけだと思っていたのですが、その宿に、偶然にも若い日本人が一人泊まっていたのです。そして、その人が、病気の私の所へ来てくれて、私の頭に冷たく絞ったタオルを乗せてくれました。私は、救いの神に出会ったように思いました。

「イスラエル人だった時のカルマが、浮き上がってきたのか」
私は、そう感じていました。
それは、何か胸の奥の底から、底知れない恐怖感が浮かび上がって来るような感じでした。
特に、額の部分が異常に熱くなり、声も全く出せないような状態になってしまったのです。
「ここで死ぬなら本望だ」
私は、そう思いました。
そして、もし、明日、私が生きていたならば、すぐに病院へ行こうと覚悟したのです。

その日の夜は、とても長い夜でした。
私の意識が徐々に遠くなっていくような中で、私は、その時、私の時間そのものが、まるで巻き戻されていく様な感覚を感じていたのです。それは前世への回帰だったのかもしれません。この時の経験は、自分の身体が一番よく知っています。
翌日の朝、私は、少し、やつれてはいましたが生きていました。そして、病院へ向かったのです。

イスラエル最初の訪問地は、サイナイ病院でした。私は外国人だった為に、それほど長く待つこともなく、診断をして頂く事ができたのです。
医師は、急救医療のプロフェッショナルでした。私をすぐに診断し、すぐに処方箋を書いてくれたのです。そのあまりの速さに私は驚いたほどです。運よく、私の身体は、それほど重病ではなく、安静にしていれば特に問題なしという結果でした。喉が苦しかったので、それを医師に伝えると、その医師は、何と、子供でも喜んで飲める液体シロップを、私の処方箋に書き加えたのです。


ユダヤの神殿とイスラムの聖地

それ日、私は、ダマスカス・ゲートのすぐ近くにある安宿に移動しました。そこは、世界中のバックパッカー達が集まるアラブ人経営の宿でした。そこで私は、約一週間、あまり動かずに安静していたのです。そして、午後になると、私は外へ出て、あちらこちらを散策したのです。
 
私は、嘆きの壁に行きました。神殿があった時は、西壁と言われている所です。その壁の先に、ユダヤの神殿が建っていたのです。しかし、現在は、同じ場所に、岩のドームが建てられていて、そこはイスラムの聖地になっているのです。ユダヤ人は、その壁を一つ越えた地に向かって嘆き悲しむのです。
ユダヤ人は、皆、頭に小さな帽子を被り、額の部分にフィラクティリーと呼ばれる小さな箱状のものを着けて、壁に向かって何遍も祈るのです。壁に口づけをしたり、頬をつけたりしています。それは、ユダヤ人以外の人にとっては、なんとも不思議に映ってしまう光景です。その姿は、まるで日本の山伏によく似ています。
その後、私は「岩のドーム」へ行きました。そこは以前、ユダヤの神殿があった場所ですが、現在、イスラムの聖地になっている場所です。その建築物は青い八角形をした建物の上に、黄金のドームが付いている聖地で、エルサレムの中心的な存在となっています。 
中に入ると、そこには大きな岩があるだけです。 

「何だ、この巨岩は?」
私は、当時、この岩の由来をあまり知らなかったので、その意味がよく理解できませんでした。ちょうどその時に、どこかの国のガイドさんが来て、それを説明してくれました。
アブラハムのイサクに対する試練は、このようなものです。

ある日、神はアブラハムに語りました。
「アブラハムよ、汝の息子イサクを、モリヤの地にて神に捧げよ」
「イサクは、私の一人息子です。そんなことはできません」

アブラハムは、神を疑いました。そして苦しみました。
しかし、アブラハムにとって、神は絶対の存在だったのです。
そして、アブラハムは、それを実行することを決意します。

「父さん、神への捧げものはどこにあるのですか」
「現地で手に入れるからよいのだ」

アブラハムは、イサクに、たき木を持たせ、ソドムとゴモラの完全に破壊された廃墟を通り抜けて行きました。そして、モリヤの聖なる地に着いたのです。
そして、アブラハムは、たき木を岩の上に敷き、イサクを巨石の上に乗せたのです。
イサクは、総てを理解しました。

「父さんが、それを望むのなら、僕はいいよ」
「イサクよ、神が御望みなのだ、許せ」

そして、アブラハムが、手に持った剣を上に大きく振り被った時、神の声がアブラハムに臨んだのです。

「アブラハムよ、イサクを殺してはならない。あなたの神への信仰心は認められた。あなたの子孫は、星の数のように末代まで増え続ける」

すると、すぐ後ろに一頭の羊がいました。そして、その羊を神への捧げものにして、無事に帰宅することができたのです。

神と一人息子と、どちらが大切なのか、ということをアブラハムは試されました。人生において、全く思いもよらないことが起きることがあります。その時に、その出来事をどのように受け止めることができるかということです。しかし、凡人である私達が受ける試練など、アブラハムが受けた試練と比べたら本当にたいしたものではないことが分かります。
神は人間を試す存在です。それはアブラハムの時代だけではありません。神はいつでも居られる存在だからです。ですから、人間は、いつでも、どこでも、誰にでも、常に神から問われ、試されている存在であるということです。

その巨石の端の方には、一つの丸い穴が開けられていました。その穴の所から、イスラム教の創始者であるマホメットが昇天したと聞かされました。
その巨石は、確かに大きなもので、めったにない巨石でした。日本でも、磐座(いわくら)と言って、神様が鎮座する所として、信仰の対象になっている場所があります。やはり、その巨石自体に何か大きなパワーがあるのでしょう。
しかし、その一つの聖なる場所が、ユダヤの聖地であり、同時にイスラムの聖地になっているということが問題であるのです。ユダヤ教も、イスラム教も、世界的に大きな影響力を持つ宗教です。しかし、その二つの宗教が、それぞれ対立している為に、その地の占有権と支配権を巡って、紛争状態になっているのが現在の状況です。
ユダヤとアラブの関係は、パレスチナを巡って、今尚、紛争の火種となっていますが、現在は、それがイスラエルを支持する西洋世界対アラブ世界という構図が出来ていて、それがテロの原因の一つにもなっています。

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ヨーロッパ編

中近東編

1.イスラエルへの出発
2.イスラエルでの一か月
3.ユダヤの神殿と、イスラムの聖地
4.トイレ探し大冒険 イン エジプト
5.ルクソールでの太陽の夢

アジア編

1.カラチの出来事
2.ダライ・ラマとの出逢い
3.ラダック・レー(1)マンダラ祭
4.ラダック・レー(2)出逢いと発見
5.ラダック・レー(3)事故
6.スリナガルの夢
7.サールナートの情熱(未完成)
8.聖地バラナスィ
9.フィリピンでの治療